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vol.25

平塚善一さん
馬鞍山のりんご

馬鞍山のりんご特集

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秋田県の南東部、国内有数の豪雪地帯である横手市。りんごというと青森や長野のイメージが強いだろう。秋田県外の人にはあまり知られていないかもしれないが、横手市平鹿町はりんごの名産地だ。ここで収穫されるりんごは蜜がつまっていて、絶妙なバランスの甘味と酸味が楽しめる。なぜこの地でおいしいりんごが育つのか。その秘密を探るため、祖父の代から100年以上続く、平塚善一(ぜんいち)さんのりんご農園を訪ねた。

平塚さんご夫妻

80代には見えない平塚さん。毎日りんごを食べることが若さを保つ秘訣かもしれない

11月前半だというのに、取材前日は雪が降った。「馬鞍城跡」の道標を横目に、車を停める。 平塚さんの農園周辺の地名は、城があった馬鞍山(うまくらやま)がなまって馬鞍(まぐら)になったという。 現在、城があった頃を忍ばせる遺構は見当たらず、山すそにはりんごの果樹園が広がっている。
横手では、ここ4年連続で2m以上の雪が積もった。雪に埋まってりんごの枝が折れてしまうのを防ぐため、かんじきを履いて枝を掘り出したという。 奥さんの平塚美智子さんは「毎年毎年、なんぎだー」と笑う。そしてこたつでお話を伺う取材スタッフに、鮮やかな赤色のりんごをむいてくれた。 甘酸っぱい香りのりんごにかじりつくと、パリッ、サクッとした快い歯触り、ジュワッと口に広がる酸味と甘味に驚いた。

りんごの実

美智子さんが切ってくれたりんごは蜜がたっぷりだ

長い冬を耐えたりんごの木。春に新しい葉が芽吹くためには、10度以上の気温と、たっぷりの雨が必要だ。 りんごは芽吹きさえすればぐんぐん枝葉が伸びるが、花が咲くと平塚さんの大仕事が始まる。5月上旬、横手では桜が散ると次はりんごの花が咲く。 ひと枝に5つか6つ咲く花の、中心花のみを残して周囲の側花は摘み取る。実がなる前、花のうちに摘んでおくほうが、実が育ってから摘果するよりもりんごの樹が余計な力を使わずに済むからだ。

しかし5月と言っても秋田では、まだまだ寒くなる日もある。摘花してから霜が降りると、せっかく1つ残した中心花がしおれてしまう。 天候を見て摘花のタイミングを計る、毎年神経を張りつめる緊張の作業だ。
花が開けば、日本ミツバチとマメコバチが飛び回って蜜を集め、自然と受粉が行われる。より確実な収穫のため、人工授粉もする。 いろいろな品種の花粉でりんごが実るよう、10種類以上のりんごを混植。花の時期が終わると、2週間に1回は下草を刈って、りんごの根元をきれいに保つようにしてる。

平塚さん 平塚さんのりんご農園を歩くと、地面がふかふかしている。有機肥料を春・秋の2回与え10〜15年ほどかけて作り上げた、りんごに優しい地面だ りんごは強すぎず弱すぎず、ほどほどの日差しを好む。平塚さんは実が育つと、枝に実ったりんごをぐるりと回転させる「玉回し」と呼ばれる作業を行う。 いつも同じ部分が葉の陰になるのを防ぎ、全体にまんべんなく太陽の光を当てるためだ。
ただし、これを夏の午後、昼から15時にかけての時間にやってはいけないという。 急に日に当たるとつやつやのお肌が日焼けしてしまうからだ。日焼けしたりんごを食べても味に問題はないが、色むらができ、見た目が良くない。 そうなると「訳有りりんご」になってしまうのだ。りんごも秋田美人と同様、強すぎる日差しは得意ではないらしい。
へたから下までまんべんなく色づいたりんごはおいしい。そっと子どもの頬をなでるように優しく、農園の全てのりんごを一つ一つ回すという、手のかかる作業があるからこそ味わえるおいしさなのだ。

りんごの実

倉庫には、真っ赤なりんごが木箱に入って保管されている

りんごの旬は秋。とは言っても、実際に収穫できる期間はかなり長い。 品種が数多く、次から次へと食べ頃がやってくるからだ。秋田では8月末からつがる、9月から千秋、そしてつがると千秋を掛け合わせた冠輝(かんき)、10月からは清明、ふじが収穫される。 では、収穫期が終わった冬から春にかけても、ずっとおいしいりんごが店頭に並んでいるのはどうしてだろう?
「横手では冬になると、りんごをしまっておく倉庫が雪に埋もれる。そうすると温度が2度に保たれた、自然の冷蔵庫状態になる。 これが、一番りんごが長持ちする条件だね。お家でなら、日の当たらない、涼しいけど凍らない場所に置いておけば、1カ月くらいはおいしく食べられるよ」。
この方法を知っていれば、自宅でもりんごを長く、おいしく楽しめる。

平塚さんのりんご農園は、20〜40年目の樹が多い。新しく植えたりんごは3〜5年で実がなるが、甘みは少ない。
甘くて色が良いりんごが実るまでは7〜8年かかる。りんご栽培は樹が大きく育つまでにも、実がなるくらい成長してからも手間暇がかかる。 そんなりんごがこの地域で盛んに栽培されているのは、土が合うからだと平塚さんは話す。
「この辺りの土は山の石でできているんだ。川の石は割れにくいけど、山の石は長い時間をかけて少しずつ割れるから、りんごの根が深くまで張りやすい。 水はけが良くて、肥沃な柔らかい表土が地中深くまである。だからりんごがよく育つんだね」。
なるほど、山のふもとにりんごの果樹園が多いのには、そんな理由はがあったのだ。馬鞍城のお殿様が、かつて城下だった場所に広がるりんご畑を見たら、さぞ驚くことだろう。

甘みと酸味と硬さが、りんごの味を左右する。どんなりんごをおいしいと感じるかは人それぞれ。 だが、横手にこんなにおいしいりんごがあるということを、ぜひ味わって確かめてほしい。りんごを育てる人と気候と土、大切なものが全てそろっている横手で、おいしいりんごは栽培されている。

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